人文社会科学の分野で、気候変動や人新世の議論をリードしてきたの分野のひとつは科学技術論です。
環境政策や環境社会学のように環境をメインテーマにした分野も当然重要な貢献をしてきました。しかし、ここ20年ほどは科学技術論が、気候変動の問題を考える新しい視点を提起し、人文社会科学だけでなく、デザイン、環境科学、エンジニアリングなどの広い分野に影響を及ぼしてきました。これは一体どういうことなのでしょうか?
これを理解するためには、環境問題がこれまでどういう枠組みで理解されていたのか、人新世がこのような理解の枠組みをいかに飛び出してしまったのかを理解する必要があります。
多くの人々の環境問題の理解は、自然環境というある程度固まったトピックや問題があり、人間がそれを解決しなければならない、という考えです。ここでは、自然環境は人間(社会)の外側にあると考えられており、この自然環境に問題が生じて地球に害を及ぼすので、人間が解決しなければならない、と考えられます。
この見方は、自然と人間社会がはっきりと分けられていることを前提にしています。20世紀の後半までは、人間の活動空間は、それと比べると遥か広大な自然状態の空間に取り囲まれていると考えられてきました。これが自然が社会の外側にあるという意味です。そしてこれが、人間が自然の問題を解決できるという考え方の前提になっています。
しかし、20世紀後半の地球観測や環境科学は人間の活動は地球の隅々まで及んでいること、現在の地球環境のあり方は人間活動の結果なのだということを明らかにしてきました。ここでは、人間社会と自然=地球は分かち難いほどに結びついています。そして、人新世とはまさにこの状態を意味しています。
このように自然と社会、人間と人間以外の生物や地球物理学的プロセス(物質の循環など)が絡み合っている状況を、伝統的な学問の枠組みで理解することは極めて困難です。自然と人間が分離されていることが、問題を捉える枠組みの基本になっているからです。そこで、新しいものの見方が必要になってきました。
それをもたらしたのが、科学技術論でした。
次回は、その経緯を紹介します。